六粒の薬/道草次郎
 
 毎日、六粒の安定剤を飲んでいる。それを知っているのは、たぶん自分だけ。母には「五粒」と言い、元妻には「四粒」と伝え、子どもには「ラムネだよ」と笑ってごまかす。医者にも、本当のことは言わない。

 外では平気な顔をしている。相談にのり、計画書を書き、電話をかける。ごく普通の職員の顔をして、日々をこなしている。

 けれど先日、その秘密がふいにこぼれた。ポケットから錠剤を取り出した瞬間、特別支援学校を出たばかりの十八歳の子に見られてしまったのだ。

「あ、道草さんの見ちゃいけないもの見ちゃった!」


その場はしんと静まり返り、誰も何も言わなかった。ぼくだけが火照っていた。
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