全行引用による自伝詩 02/田中宏輔2
 
てきたわ。日曜日になると、あなたたちは手をつなぎ、ひと言も口をきかずに何時間も歩いたのね。公園には、涸れたヒヤシンスの残り香が漂っていた。長い間散歩しているうちに落葉を燃やす匂いが鼻をつくようになったけど、そんな風に散歩していて、むかし私たちが海岸を歩きまわった時のことを思い出したのね。きっとそれは、自分たちの身にいろいろなことが起こり、川岸を歩いたり、ジャスミンや枯葉の匂いを嗅いだりして、終わりつつある季節の謎めいた予兆を感じとっても、二人ともそのことをけっして口にしようとしなかったせいね。結局、沈黙なのね。クレール、クレール──あなたは私に宛てた手紙でそう書いてきた──君はようやくわかってくれ
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