全行引用による自伝詩 02/田中宏輔2
 
わたしはただ、美は表面的なものにすぎないという考えに疑問を呈しているだけ」シスターはコーヒー・カップを両手で包み込むように持った。「もちろん、心なぐさむ考えではあるわ──そう考えれば、自分がいい人間のような気分になれる──でも、美しさは富と同様、その人の徳性にとっての財産なの。裕福な人間は、法を遵(じゆん)守(しゆ)し、寛大で、親切でいることができる。極貧(ごくひん)の人は、そうはいかない。一ペニーのお金を手に入れるのに汲(きゆう)々(きゆう)としている人にとっては、親切でいることさえたいへんなことなの」彼女は皮肉な笑みをうかべた。「貧困が人を向上させるのは、豊かでいることもできるのに
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