百を足りて伏しやまず/菊西 夕座
 


ゲジゲイジュの姫君は百たりて笑い転げ こらえきれずに突っ伏してなおも笑った
もうしぶんのない美貌が指揮者を射止め 彼女の胸にオーケストラを響かせたから
そのハーモニーは格調ある百の手を揃え ゲジゲイジュの美を至高にまとめ上げた
まるで夜空に高く打ちあがる花火の太陽 完璧な表現にくすぐられて彼女は悶えた

美を競いあって長くのびていた毛髪から 女王にえらばれた張りのある一本が抜け
抱えきれない栄光とともに香しくはじけ 清らかで透明な彼女の足元に落下すると
一匹のムカデが目ざとくひっくりかえり 群がる足の亡者を競わせてつかみかかる
洗練されぬいた艶光る漆黒の一弦を巡り 亡者たち
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