I FEEL FOR YOU。/田中宏輔
も、その男の子の頭の池には、その男の子は戻らなかった。それから何年もして、ぼくが高校生くらいのときに、賀茂川の河川敷で恋人と散歩してたら、蛙がゲコゲコ鳴きながら目のまえを横切って、川のなかに、ボチャンッと音を立てて跳び込んだ。風のなかに、
〇
川のにおいと混じって、あの缶詰のウィンナーのにおいがしたような気がした。恋人は、ぼくの顔を見て微笑んだ。「どしたの?」ぼくは首を振った。「べつに。」ぼくは恋人の手をはなして、両腕をかかげて背伸びした。「帰ろう。」と言って、ぼくは恋人の手をとって歩いた。
〇
バス停で別れるとき、ぼくはすこし気恥ずかしい思いをし
[次のページ]
戻る 編 削 Point(11)