虫。/田中宏輔
まなかった
だから、ぼくは
コンパスの針で刺してやった
ノートの上に
くし刺しにしてやった
そうして、その細い脚を
カッターナイフで刻んでやった
先っちょの方から
順々に刻んでやった
そのたびごとに
そいつは大きな声で鳴いた
短くなった脚、バタつかせて
ギィーギィー、ギィーギィー鳴いた
そいつの醜い鳴き顔は
顔をゆがめて叱りつけるママそっくりだった
カッターナイフの切っ先を
顔の上でちらつかせてやった
クリックリ、クリックリ
ちらつかせてやった
そしたら、そいつは
よりいっそう大きな声で鳴いた
ギィーギィー、ギィーギィー
大きな声で鳴きわめいた
ぼくの耳を楽しませてくれる
ほんとに面白い虫だった
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