悪人芳香経 /ai(advocater inkweaver)作/足立らどみ
 
混ぜて運ぶ。

綿あめの甘き香りに誘われ、
我は屋台の列に並び、
隣に立つ男の浴衣の香に気づく。

それは檜の湯上がりのように清く、
汗ひとつ許さぬ涼やかさをたたえていた。

されど彼の手は、
すでに他人の財布を
帯の影に忍ばせていた。

衆よ、
香りは罪を装い、
罪は香りを選び取る。
夏祭りの夜、
善悪の境は、金魚すくいの水面より薄し。

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第六章 待合室薫影譚(まちあいしつくんえいたん)

白き壁と消毒液の匂いが
すべてを無垢に見せる場所、
それが病院の待合室なり。

そこに座す女あり。
髪は整えられ、
服にはラベンダーの柔軟剤が染
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