サーカスの少女/室町 礼
 
山の清流が海にのまれるのをきらった
少女は拒食症になって衰弱した
どんな医者に見せても治らず
八卦見や怪しい霊媒師も匙をなげた
身代わりのように飼い犬ポチが
少女の一家の菩提寺門前で死んでいた
のはその頃だという
ポチの死後四国巡礼に母とでかけた少女は
寺社の夜のごろ寝で中年男にお尻をさわられ
ニ年ぶりに実世間に触れた気がして
こころが少しざわめいた
いつも海を見ていた少女は失踪した
駐在は本署に届けず
人買いにサーカスへ売られたという噂のみが
風のごとく島に落ちてきた
赤赤と氷と書いた峠の茶店に腰を掛けて
サーカスの象に乗って手球をはじく
少女の眼差しを推理する男がいる
玄海の小島に来る舟は日に一度
大型船の姿はみえず
夏の盛りに夏の衰へを背に感じたとたん
夏の暑さは遠のいていった
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