I氏の手のひら/花野誉
 
ほんのり朝日が差す狭い部屋

人が縦横無尽に眠る中で目覚め

I氏と目が合った

時折蘇る甘苦い記憶


I氏は誰もが認める男前

気さくな好男子

でも

踏み出す勇気は湧かない

整いすぎた顔に

あまりにも無垢で素朴な様子

勇気は萎えしぼむ


地元仲間と六甲山へのドライブ帰り

誰かの家で雑魚寝

左向き 恋人の胸に潜りこみ眠る

目が覚めると

右向き 鼻先にI氏の顔

彼の大きな掌に自分の?が乗っかっていて

どうしたもんかと

息をひそめて寝顔を見ていた

ふいに彼の目がパチリと開く

暫しの沈黙と
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