暴力のオントロジー/室町 礼
へんな話をしようとおもいます。
一生に一度っきりでしたが
怯懦なわたしが踏み外してはならない欄干を踏み外すように
自制と恐怖の意識を失って闇雲に行使した
容赦なき暴力は
黒い潮騒のように周囲に及んでいきました。
その出来事があってから数日
いや、何年ものあいだ
すべての色彩が白黒にかわり
色つやのよい者たちの顔は脱色され
にぎわっていた街は
雨が降る前の夕方のように青ざめていったのです。
それを行使したのがこのわたしであるにも
かかわらず
だれもが怯えたように挨拶する裏返った世界の
物理的な力が精神にもたらす浸透の深さに
心慄き
心が冷え 萎えていきました。
し
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