静黙/リリー
小さな瓦屋根の付いた
土塀が続くわき道で
赤い郵便バイクとすれちがう
黄土色の築地塀はひとところ
くずれたままになっていて
原付のエンジン音が
その空隙から逃げていった
あいているそこからは
雑木の葉ずれの音しかきこえない
そっと後をふりむくと
観光客らしき人はひとりも見えず
なんの思い出も無い古道で
湿った埃のにおいを嗅ぐ
犬のように佇んでいた
梅雨の明るい落日
にじんでくる額の汗を拭い
見あげる白っぽい雲の切れ間に
錫色のダリアが、一輪咲いている
自在な旅を終えようとする
空虚さに苦い草を喰む
きれいに語れない言葉が降りてきて
そら耳でいいから、
私の生きかたと
身をよせあって手を振ってくれる
こだまを聞きたい
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