空き家/リリー
 

 やがて彼は、高いところに月のある夜
 遥かな山頂にむかって
 雲にとざされた尾根から尾根へと駆けめぐる

 誇りはどこかへぬぐい去られ
 細く長い叫びをあげる山犬の様であったかも知れない
 尾根の岩の上で遠い仲間の
 同じ遠吠えを感じたとき
 肩先をすぼめピンとはね上がった耳は次第に垂れて
 目の光がやわらいで何と優しく
 かなしげなことだろう

 叔父は週末に父親を庭のある実家へ
 連れ帰るようになり
 私が訪ねて行った日に二人きりになった
 おじいちゃん
 時間のうねりとさやけさと
 風景の其処に咲きほこる
 あの菜の花のいろは、どんないろだとも言いづらい
 
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