空き家/リリー
 
 長男の叔父が相続して売却されるまで
 二十五年間空き家だった
 母の実家
 大きな日本家屋の庭で
 剪定されない樹木と荒畑
 雑草の茂る一角に、水仙が
 亡くなった祖母を忘れじと香る
 縁側で腰かけているおじいちゃんと私
 あのとき、けぶるように咲いていた菜の花は
 いつだったのか?
 
 「のんちゃん、ママが待っているからもう帰りなさい」
 私を見る祖父の穏やかな表情は
 いつの時代を生きていたのだろう
 私の母の四回忌は過ぎていた
 半世紀以上を連れ添った妻が病に伏すと
 あとにのこされたおじいちゃん
 長男夫婦との同居生活を始めた高層マンション
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