こいずみしんじろう/無名猫
 
いた言葉が、立った
そして、時間のほつれに紛れた

誰もが誰かの言葉に縛られて
「正しさ」を探す時代に
わたしたちはわかった
わからないということを

彼の言葉は
政治の仮面をつけ
風のない朝のようだった
だが、それが風を起こした

その風に
言葉が舞い、旗が揺れ、
逡巡が、騒ぎ出した
あるいは、そっと目を閉じた



夜、
彼はノートをひらく
インクの滲みのように
言葉が広がっていく

「伝えるとは、伝えたいと思うこと」
彼はそう書いて、しばらく見つめる

誰にも読まれない、密やかな詩
眠りに落ちる頃、それを静かに閉じる



とある朝、
ニュースの波間に
彼の声が響いた

「私の言葉は、私の言葉です」

誰かが笑った
誰かが首をかしげた

そしてひとり、
音を消した画面の前で
泣いた人がいた

理由は、わからないままでよかった

こころは、こころだった
せかいは、せかいだった
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