蜆蝶/リリー
地上のある一部の上を
浮遊しているシジミチョウ
少し伸びている青芝には
いちめんの陽射し
こめかみを撫でる風と
こうしていま、私はひとりで
ビルの壁際に沿った歩道を歩き
風景を所有している
サックスブルーの小さな翅が
ひらひら舞うのを目で追うごとに
おぼろになって
ついには消えて
あとにのこされた芝が見たこともない
蒼海の様で
胸を染められながら
なぜかはっきりとする足もと
通勤の人影が前方へ流れてゆく
この地上のある一部の上を、
道だと思ってしまうと
道はかたちを与えられて
なおさら道になろうとして
たえず苦しんでしまうのだ
浴びている光をそのままに
翅の輪郭が透けてしまう
あのタマシイの光耀は、何処へ
彷徨っていったのだろう
私の意識と肉体は、
詩にもなり得ないところで軋み
感情の泥に沈んでいる想いを
今日もなだめて笑っている
戻る 編 削 Point(14)