天国は展開の極意 三章〜音のない花火が胸を静かに鳴動させる〜/菊西 夕座
 
孤独であることに耐えられない火は死後に静寂を灯した
夜があけて光あふれる里山の草木に微風(そよかぜ)はあたためられている
碧い空がうららかな輝きにみちた礼装で黙祷をささげる
海は静粛な空気に冷やされて地に水をまろばせる

街なかを縫う川がブロック護岸にそって秘密をささやくとき
水面にひた隠されてきた濁り苔は岸壁にうかびあがる
忘れていた記憶も苔に呼び起こされて郷愁の香(こう)を発散する
火の粉がちらばるような薫香にまぎれてあなたが蘇える

静謐に浸された自然の和らぎに命はうっとりとしながら
硬化した涙を見えない髪毛のように臍までおろして
ひたすら静けさの中へ溶けいる先であなたの種火をいだく

ふたたび結びあう沈黙の園にいかなる恐れもたちこめず
ほどけた憂愁だけが柳の枝のように風と調和しながら
呼気と吸気の波で胸を洗い優しい苔色の火傷を火照らせる
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