ウラノスの午后/大町綾音
 
を包んだ女性。黒いショートボブに、耳元の小さなピアスが反射する。その顔を見たとき、彼は思った。

 ──知っている。

 だが、それは「いつ」知ったのかが分からなかった。昨日でもなく、十年前でもなく、生まれる前のどこかで──そんな言葉がふいに浮かんだ。

 彼女は、ただ窓の外を見ていた。通りすがる人の顔ではなく、その先の、光と影が交錯する坂道の遠景を。

 ふと、彼の中にある映像が蘇った。  赤い絨毯。小さな部屋。とてもやさしい声が、どこかから聞こえてくる。まだ言葉を持たなかった彼に、繰り返し語りかけてくる。「──ごめんね」「──ほんとうはね」「──また会えるよ」

 それが誰
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