天気予報の詩(うた)/大町綾音
あの放送が好きだった。
テレビでも、スマートフォンでもなく、キッチンのラジオから流れてくる、あの音声天気予報。少し低めの女性の声が、今日の気圧配置を静かに語るのだ。
「関東地方は、高気圧に覆われ、晴れるでしょう。
ただし、午後からは、ところにより一時、にわか雨がある見込みです」
今思えば、それは詩だった。
日々の営みにうっすらと差す、光と影の予兆。布団を干すかどうか、洗濯を急ぐか、夕飯は鍋にするか、それだけで小さなドラマが生まれる。そして人は、そのドラマの脚本家でもあり、ちいさな役者でもある。
「にわか雨がある見込みです」──この控えめな言い回しのなかには、確定を
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