耳の奥の小さな灯り──聴こえないはずのものがふと灯る、感覚をこめて……/大町綾音
眠れない夜に、わたしは音楽の中で目を閉じる。眠るためじゃない。眠れなさを否定するためでもない。ただ、静かなままに目覚めている自分を、責めずにすませたいだけなのだ。そんなとき、わたしにできるのは、耳を開くことだけ。
音楽は、世界でいちばんやさしい孤独のかたちだと思う。誰かが、誰かのために、あるいは自分のために鳴らした音が、時空を超えて届く。録音されたその音の背後には、息をひそめていた人がいて、たとえば痛みをこらえたり、なにかを諦めたり、あるいはそれでも微笑もうとしていた──そんな気配がにじんでいる。
夜に聴く音楽が特別なのは、わたしたちの心が、昼の論理から少し外れて、感情や記憶と近
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