断章・〉運ぶ時、時の運び〈・章断/ひだかたけし
 
夕方と云う緩衝地帯
埋葬される思い出
忘却と麻痺の葬送

なんにもなくなる
からこそ
例えばあの子の
コーヒーカップ
その素敵な色合い
時流からふっと
浮かび上がり

くすりと笑った娘
団欒の時の
あの温かさ
遠く去り
疾っくの疾うに
天涯孤独とか
週一回だけデートし
それ以上
近付かない互いに

もう 、

夜目に意識の流れ
光の渦巻き
取り払われる
感覚の外界
心落ち着き払い
囚われの無くなる折
思考うねりにうねり
投擲される生命の原像
過去から射し込み
尚も更に
この今へと凝集し
生きて息衝く光源
更に残響し続け

無痛と云う緩衝地帯
記憶と化す以前の
イノチのチカラを辿り

 埋葬される
  この肉体
  それまでの
 紆余曲折の間 、

愛娘は今年二十七のはずだ








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