昭和64年をまたいだ後に/北村 守通
 
だけが
 生き残ったころ
 地下の巣穴から
 多くの人々が
 担ぎ出されていた
 そのニュースを肴にして
 人々は
 その日も
 居酒屋で時間を潰し
 明日の仕事を忘れようとした
 何事もなかったかのように
 電車で帰路に就いた
 駅の構内からは
 ゴミ箱が消え
 あるいは
 ゴミ箱は封鎖され
 人々は
 思わぬ
 新たな不便と直面し
 困惑したが
 忘れ去るのに
 それほどの時間は必要としなかった
 ある日
 富士の山麓では
 鳥かごを携えた
 紺色の一団が
 白い集団をかき分けて
 白い村に入っていった
 白い国に入っていった
 そして
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