一匹の虫のように(四月最後の日に)/山人
世間はみな混沌としていて、自分だけが一匹の名も無い虫のようにぽつねんと枯草の上に立ち尽くしているような、そんな朝である
川は雪代で水量は増し、次の季節を急かすように流れている
雪に抱かれて冬に体を開き、肉を埋め込んだ日々が終わりを迎える
寂しい、と、取り残された冬の残骸たちがつぶやくのを聞いていた
雪山の向こうの、痛むような紺碧な空が自分の真上にあった
山岳の源頭のスロープは、シュート状に雪を蓄えて
傾斜はやがてボトムへと落とし込む
今まで来たことがなかった平地があった
白い大地、雪の縦波が目を綴じていた
汗を舐めた。汗の結晶が粉になってあたりに乾き、、塗されている
四月最後の日、私は原因不明の傷口の中にどっぷりと浸っている
あたりには粘液と体液がうねりながら蛭のようにうごめき
裸ん坊の私の体を包んでいる
明日から五月だという。それはいったいどこの世界なんだろう
ぽつねんと虫のように時折触角を動かしてみる
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