古本屋の軒下で/室町 礼
とある
有名作家のものを手にとって
裸電球の下で
ふっと
息を吹きかけると
埃が舞った
貧しい人の夢が雪となって降るとき、
触る者は凍死し、資本主義は麻痺する
『詩人の生涯』※
この小説家は詩人を誤解していた
ふてぶてしい虫は
ことばごときで凍死などしないし
麻痺もしない
詩人を
子どものように美化していた昔の小説家が
詩人にあこがれて夢中になって書いた
こんな言葉を今や
だれが知ろうか
詩なんて
捨てられた大根のヘタが咲かせる
小さな花の 薄もも色の弁のように
雪よりも
もっと小さな片々となって
かぜに散ってゆくだけのものだね
いっときだけ
人をほっとさせて
そして
だれからも
忘れ去られるように
溶けていく
※安部公房全集12『詩人の生涯』
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