記憶/栗栖真理亜
 
ギが慌てて土を蹴飛ばしながら側溝へと飛び出した

焦茶色の体でゴキブリと間違えて驚いた私を尻目に
白菜の葉の隙間へと再び潜り込む
葉をかぎ分けながら水を注いでみると
体を少し弾ませそのままぬかるんだ土の上でじっと佇んでいた

何気ない現象がとてつもない鮮やかさに変わるとき
この感覚を忘れまいと脳が記憶して
やがて幾月も年を重ねながら
死の直前にふっと甦るのかも知れない
昼日中じゅうぶん温められた空気のなかで
頬を冷たく風が撫でてゆくように
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