記憶/栗栖真理亜
 
井戸水で泥を払う
ラディッシュはたちまち濡れた肌に日差しを浴びて紅く輝く
まるでルビーのように

粘土のように粘りのある泥を深緑の髪とともに冷たい水で洗い落とし
さっぱりとした體でこちらを見上げる

買い物帰りに重い荷物を荷台に乗せて自転車を押しながら橋を渡る
見上げた月は丸く笑いながら白く光る
まるで目を射るような勢い

黒いカーテンを引くように叢雲が月を一気に覆い
その輝きどころか影すら隠してしまう
月は雲の切れ目から顔を少しだけ顔を出し
恥ずかしそうに控えめに光り出す

大きく広がった白菜の葉を押しのけながら乾いた土に水をやる
白菜の影に潜んでいたコオロギが
[次のページ]
戻る   Point(3)