ドキュメンタル/おまる
事が無かった。上京したての頃、なんの神のイタズラか同郷の人に出くわた。話を聞くと実家のほとんど隣人であることが判明して驚いた僕は「世界は狭いですね」といって笑ったのだけど実際は自分の世界が狭かっただけだ。
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ひところわざわざQ市にまでいってテレフォンアポインタをしていた。ある日業務中に奇妙な声に遭遇した。その声は死んだ父親の声にそっくりで不思議なことに会話はどうしても堂々巡りになるのであった。しばらくしたらその声は途絶えた。業務が終わり同僚と別れ自転車で数キロの帰路に就く。Q市は市電も市営バスも通っていない。うねるような丘陵地をぬうように配列された都市の風景の中を進んでいった。こ
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