かきくけ、かきくけ。/田中宏輔
 
ダメなのかしら。
オコジキって丁寧語にしてもダメかしら。
貧しい男と貧しい女が恋をするように
醜い男と醜い女が恋をする。
ぼくはうれしい。
バスの中では、
どの人の座席の後ろにも
ユダが隠れてる。
ここにもひとり、そこにもひとり。
そうして、ユダに気をとられている間に
とうとう祈りの声は散じてしまった。
それは、むかし、ぼくが捨てた祈りの声だった。
蟻は、一度でも通った道のことは忘れない。
一瞬で生まれたものなのに、
どうして、すぐに死なないのだろう。
おひさ/ひさひさ/おひさ/ひさ。
で、はじまる、わたくしたちのけんたい。
ひとりでにみんなになる。
ああん、そ
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