まっさらな直線、「凧の思想」 ──大岡 信のこの一篇/田中宏輔
 

地上におれを縛りつける手があるから
おれは空の階段をあがつていける

肩をゆすつて風に抵抗するたびに
おれは空の懐ろへ一段一段深く吸はれる

地上におれを縛りつける手があるから
おれは地球を吊りあげてゐる
(『故郷の水へのメッセージ』所収)

 見事なレトリックであると思います。視座の一貫性には、ひと揺らぎも見られず、ここまで言葉が切り詰められているのに、凧の動きがきわめて繊細に描き出されており、それでいて、じつに悠々とした印象を受けますものね。それには、作品が旧仮名遣いで書かれてあることも、一役を担っているでしょう。それにしても、「おれ」という一人称はいいですね。まさに、
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