代償不明/ただのみきや
 
たの唇の側
炎は静かに姿勢を保つ
いま吐息と戯れ踊っても
見通せない
闇の深さが際立つばかり
なにかが尽きるまで
炎は静謐を抱いたまま 
こうしてふるえている
あなたの唇の側
現象は黙秘したまま
ことばからわずかに浮遊する


いま夢見る過去が未来を食む
わたしの豪奢な寝台 
天秤皿の上で半身を想いながら
重さを失くしてゆく
可能性を塵芥とし
すべての糸を切り
追放する 
自らを 永遠に
たどり着けない 月
高く 高く 落ちて


聞く 固く濃く
枯らす呼気 
来る 煙に狂う
ここに汲む声 
きみの書く
神の消された国で
根拠なき禁句を可視化する
苦界との邂逅 航海を
悔いもぜず
菊に囲まれ暮れてゆく
噛みしめる感慨もなく
暗いくらいカラスは駆けて 
砕けたガラス
片眼を切ったら罌粟畑
季節を欠いた隠し事
改ざんせよ
ことばよ記憶を描き直せ


                     (2024年2月17日)








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