消え物/タオル
せつ、
もう一つ、妙にあかるい藤色のそれを指でつまむ。
──西洋の干菓子、と祖母は言った。しわしわの掌にちょんと載せ。
わからないなあとわたしはのんびり笑った。
この舌のうえで儚く消えていったものたち。
静かに味わわなければ、と思う。夜のようになるべく静かに。
舌にはかわいい、まあるい跡がのこるにちがいない。
──また明日。と祖母は言い、その言い方でもう口中に何もないのが分かった。
いつものようにせまい玄関に立つと左手を壁に付けた姿勢でつっかけを履く。
もう帰るの?
わたしは追うように声を出す。まだあるのに。
──もう充分だよ、甘いものは。
祖母は笑った。
その笑った口に、かわいいまあるい跡は見当たらなかったけど、
戸を開いたら、夜の闇がやさしかった。
。
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