風の日の夜/リリー
 
 
 風の夜が来た

 しめ忘れたガラス戸から
 一枚の枯葉を伴って
 大胆に忍び込んで来た
 啜り泣きかけている女に
 熱く くちづけようと
 風の夜が来た

 思い切り 声をあげて泣く事を知らず
 声を殺して胸を押さえる女の
 重たい 悲しみ
 風の夜よ
 お前にそれが解ろう筈もない

 天の下の無情でもない
 それは 掌につつみこむ
 ブドー酒の色

 吹きすさばれている躯中の
 鳴り響くものを全て
 流し去って
 愛を深く沈めたい

 風の夜が来た
 青ざめて
 乾いて
 掌につつみこむグラスの中の慕情の色

 
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