それはたぶん雨/かぜきり
雨の中
彼は一人
一人彼は雨の中
雨の粒の櫓の下で彼は
一人濡れている雨の粒の櫓の下で
そのゆれる髪も手も櫓のような雨の中で彼は
濡れた髪も足もゆれる雨の中でかすれて際どく透明で
彼は濡れて際どく揺れて透明で手も髪もでも顔はかすれて見えなくて
揺れる透明さだけが際どく伝播してきてでも顔は見えなくて冷たくてかすれて
消えてしまいそうで
だから そっと傘を差し出したのです
ゆれる雨をさえぎって 見えない顔のその上に
そして ポツリ 手に触れたのは
まるくあたたかい はぜた 感触
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