羊水/fujisaki
 
僕の困惑、
はっきり書かれているだろう
胎児のつける通信簿に

文字通り身を挺して、すべてを守る妻を、
食卓の向かいから微笑んでみている、僕、
は、いま、
妻が入った残り湯に浸かっている、
すると、
もしかしたら
胎児の細胞の一部が、溶けだしているかもしれない、
と思って、
はじめて
触れられた気がする
柔らかいもち肌、と
長い長い、まつげ
(君の子だもの)
急に追い焚きがはじまって
すっかり冷めたはずの残り湯が、
じん、じん、と、温かくなる
(まるで、羊水のように)
(僕だって胎児だ)
(世界に生かされている)

ポプラの木は、まさに新緑で
僕はひどく感じ入ってしまい、
もし冬生まれだったなら、
待合室から見えるだろう雪景色に感激して
名前、ゆきちゃんにしただろう
そんな話をしていたら、妻は呼ばれて、
僕は、目を瞑って、
診察されている、
僕の姿を想像する
(ゆうすけさん、今日は20週検診ですね 
 だいぶ大きくなってきましたね)
僕は産めない
けれど、パパになる。
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