件名瘡/妻咲邦香
っと楽しい話をしてよ
もっともっと話をしてよ
信じられ過ぎて出れなくなった夜のキッチン
神様が迷っている
似合わないエプロンをして
包丁は錆びだらけ
音楽だけは止めないでと
床に散らばった色とりどりのカプセル
それでも色が必要なんだ
綺麗だねと言われたいんだ
きっと誰もがそうなんだ
黙ってシチューを煮込む
言葉はもう狭い封筒に入りたくない
だから夢のある話に乗り込んで
割れた鏡に在りし日が刻まれる
タイムマシーンは重力の浜辺に乗り上げた
また一行目から書き出す
何行書いても、一行目しかなくて
言葉は次々と変わる
なのに私たちは永遠に一行目で
誰か
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