文化会館の用具箱の隅に残されていたいくつかの書き置き/ホロウ・シカエルボク
 
こうして現実のなかで息を吹き返すことが出来たのだ

歌われることのない音符ほど
ひとを惹きつけてやまぬ音楽はないでしょう
がらんどうの合唱がひび割れた講堂で反響を繰り返すときに
見開かれたふたつの目はいくつかの衛星の爆発を見るでしょう
概念上の命の死が血の雨となって
あらゆる路上を舐めるように洗い流して行くでしょう

わたしの記憶には虫食いがありました

カレンダーの禍々しい日付から順番に塗り潰されていって
鳴り止まない電話はヒステリーのように同じ文脈を行ったり来たり
屋上の簡易的なポリカーボナイトの波板が激しい風で脚をばたつかせ
戦争に似ているねと会ったこともない祖父
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