女の一生/atsuchan69
 
バちゃんと呼ばれるようになった。

月日は流れ、男の子は社会人になっていた。トラックに乗って毎日遅い時間に帰ってくる。彼女は今、ビルの清掃員だ。アパートから立派なマンションへ移り住んでいたが、そこにはふたりの孫とよく働く嫁がいる。

秋の陽のふりそぐ黄昏時に公園のベンチに並んで座っていると、孫のひとりが「おばあちゃん、家にはどうしておじいちゃんがいないの」と聞いた。「死んじゃったんだよう、ずっと昔に」と、嘘を言ったが、自分の人生があまりにも勝手すぎて孫には本当に申しわけなく思った。そうは言っても女ひとり、けして楽な人生でもなかったが。「おばあちゃん、アイス買ってあげようか?」そう言うと、ふたりの孫は「うん」と声をそろえ頷いた。
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