遺伝子の色づく/万願寺
。食道に気道にたくさんの青い色素が詰まっている、悲しさの模様を歌っている。涙は青くない。バスタブも青くない。ただすこしだけブルー。私たちの吐く息は整髪料の匂いがする。ただ少しだけ、気道の青をうつして、父のことばを繰り返してゆく。どんなに苦しく酸素の少ない青い空気にも、生き延びられるだけの理由はある。花びらを吐いて楽になれるのならそうしたい。誰もがそう思っている。だけれど誰もがわかっている。手遅れの命、私たちはもう食べて食べて食べて食べ尽くしてしまった。土だけは。土だけは永遠に黒くありますように。どうか父の作りだした青いばらを、この星が早く忘れてくれますように。私たちの気道も食道も、青い整髪料が詰まってさっさと閉じますように。むせかえるほどのこのかなしさのなかで、夏の日に生まれる鎌切はきちんと黄緑色になりますように。
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