海に還る/大覚アキラ
 
生まれたのが
海の近くの
とても小さな町で

だから
海の見えないところにいくのが
怖い

波の音とか
磯のにおいとか
塩気を帯びた風とか
わたしの細胞のひとつひとつが
そういうものに
縋って生きているのだ

(真夜中に海辺に出て
 誰もいない砂浜を歩く
 湿った砂を踏みしめる感触を
 足の裏で確かめるように
 味わうように)

誰も住む者が居なくなって
まるで
廃墟みたいになってしまった
あの海のそばの家の壁には
わたしが描いた海の絵が
まだ貼られているのだろうか

わたしの描いた海が
どれだけ色褪せてしまっていたとしても
わたしの中の海は
永遠の青に染まっている
戻る   Point(3)