かいじゅうのうた/凪目
じゅうどこかから体液が垂れ流れてる
あざはあざのまま
あばたはあばたのまま
ただれてやぶれた心臓を握りしめてうろついてる
そいつは切符になどならない
底抜けの口はそう言う
底抜けのつむじも同意見
部屋では
脂まみれの手足が僕を呼んでる
鍵をかけたはずの部屋
鍵束はどれも鍵穴にはまらない
閉じ込めておいたはずの部屋
扉のない部屋
どこにいても音がする
昼は
昼に戻らない
戻らないから
模倣した時間を複製してる
コピーのコピー
もう劣化しない画素
コピーのコピーのコピーのコピー
誰かが背中を蹴る
陳腐で貧相な足
魔法を帯びた足
その人はただ二文字の音を与える
生涯烙印として機能するのに十分な音
時刻は午後4時49分
かいじゅうは通話ボタンを切ったあとの、指の表面を泳いでいるよ
かいじゅうは駆けていく人の背後、信号機の中で点滅してる
かいじゅうは黄色い点字ブロックの外側の、膨らんだ風の形をしています
発車します
無理な乗車はご遠慮ください
閉まるドアにご注意ください
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