ポケットには丸めた鼻紙だけのくせに/ただのみきや
 
冬の髪の匂い

雪の横顔には陰影がある
鳥は光の罠に気付かずに
恐れつつ魅せられる
歌声はとけて微かな塵
雪はいつも瞑ったまま
推し測れない沈黙は沈黙のまま
やがてとけ
かつて人であった疑問は
もう存在しない
突き放しながら魅せられる
錐揉みの
鳥の傷は鋭く尖る


一羽はぐれた顔が傷口から迷い込み
転がる鈴の輝きを追って火に飛び込んだ
眼は決して語らない氷の手を伸ばして
本を開く
本を閉じる
どちらが死の象徴たりうるか
問いの素振りで雪原を吹き抜けた
眩い堕落が重力に激しく逆った
真っ赤な林檎ひとつ孕んで
空は大地を隠蔽する

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