詩の日めくり 二〇一九年三月一日─三十一日/田中宏輔
 
何かがパシャって水をはねる音がして 
見ると 
白川にでっかい鯉が泳いでいて 
なんで白川みたいに浅い川に 
そんな大きさの鯉がいるのかな 
って不思議に思うくらいに大きな鯉だったんだけど 
 ぼくが 
「あっ、鯉だ!」って叫ぶと 
林くんが 
学生服の上着をぱっと脱いで川に飛び下りて 
その鯉の上から学生服をかぶせて 
鯉を抱え上げて川から上がってきたのだけれど 
学生服のなかで暴れまわる鯉をぎゅっと抱いた林くんの 
彼のお父さんと同じセルの黒縁眼鏡の顔が 
それまで見たことがなかったくらいにうれしそうな表情だった 
今でもはっきり覚えている 
上気した誇らし
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