記号を嗅ぐ/ただのみきや
 
まんざら

空は頬を染め地の温もりを剥ぎ取った
黒々と虚空をかきむしる預言者たち
火を呼び下すこともなく炭化して
瞑る睫毛のように夜を引き寄せる

真昼の夢はいま落日にくべられる
花びらのようなひとつの雪原が
真正の静けさが通り魔の刃物になって
わたしの闇から戻って来る

窓ガラスは瞬く街の灯を凍らせて
目を凝らせば光は毛羽立ち闇を刺した
夜の漆器にいのちが滲み出して
傷痕を裏からなぞる水脈のささやき

時間は方便で記憶は辻褄を合わせ
蝶の憩いのように刹那に固執して
概念の女を抱くように幸福感のない
幸福を膝に乗せる悪くはない拷問





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