寒くなると物忘れがひどい/ただのみきや
白心中
唇の合掌
耳は氷柱みたいに澄んで
睫毛の雪がとけた
遭難と凍死を繰り返す
冬眠できない二人
こうしてまた長い
白昼夢の時代を迎える
ゼロの盲点
裸の樹に鴉が止まっている
微かな雨
時の唾が景色を潮解させる
その黒の静けさは心地よく
眼差しは猫を抱くように羽毛を撫でた
――ああ時間のレトリック
おしまれる/あきられる
観念よりも儚くすり抜ける刹那の霊
鴉とわたし どちらが先に
好み
雪に埋もれてゆく車の中
静寂のスイッチが押される
どこからともなく湧いて来るあのノイズ
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