演者たち――眼差しの接吻/ただのみきや
 
声の肖像

どこかで子どもの声がする
鈴を付けた猫がするような
屈託のないわがままで
なにもねだらず行ってしまう

風がすまして差し出した
果実は掌で綿毛に変わる
ぱっと散った 光





死語の鍵穴

鍵を失くした子どもが泣いている
家に入れなくて泣いている
鍵は首からぶら下げている
なのに気付かず入れない

泣いて哭いて小鬼になって
鍵を失くした別の子を誘う
鬼になって家から出れば
楽しいことが山ほどあると

泣き腫らして目は真っ赤に燃えて
黄昏に影だけが伸びてゆく
夜に慣れたころ角や牙が生え
鍵のことなど忘れてしまう
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