いのちの湿度/ただのみきや
投げるには
憎しみは摩耗しすぎていた
誰かが景色に投網をかけても
風のようにすり抜けて
地から足が浮き上がったまま
サギの眼差しを愛し始めたころ
それが枯れ木の節くれであることに気付いても
縫い付けられたこころは
裂けても千切れても蜜のしたたり
肌に呪を刺す清姫の恋
毒々しいほど科をつくる朝焼けに
ぬいぐるみの瞳が白く曇っていた
死者の冷気と生者の体温がもつれ合う
仄暗く 時計もない
長靴の中にもうずっと 跳ね脚の
一本もげたコオロギが静物となって
やがて日差しは低く地にたゆたい
去り際の黄金をまき散らすだろう
病者のまどろみの中で
裸体の死に
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