告別/石村
らぬおだやかな陽を浴びて
時折の西風がお前の傘を飛ばした
すると天使が笑つた
お前も笑つた
僕は今日とかはらぬ道を歩いてゐたのに
けれどお前がもうどこにもゐないといふことは
どんなに僕が呼び掛けたとしても
答へが永遠にかへつてこないといふことだ
お前がきかせてくれた名も知らぬ歌が
めぐる季節の内に忘られてしまふといふことだ
それでも僕が生きてゐるといふことだ
お前以外のすべてがここにあるといふことだ
それがどんなにつらくさびしいことかを
お前に知らせるすべがないといふことだ……
時折西風が吹く
そして天使が笑ふ
もう昨日までの時計は止めて
歩いて行かう
お前がゐた日々の憧れだけで
するとさざ波が寄せ返し
沖を白い帆が行き過ぎる
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