幽霊 器を持つ虹/木立 悟
 
夜に近づく虹
けものみち
流木と月
降る音は光 降る音は灯


それはかつて弓だった
矢を失くして剣となった
夜を視る鳥の目が
最期の軌跡を覚えている


境いめを行き来するもの
何かを何処かへ置いてきたもの
居ると同時に
居なくなるもの


さかしらに さかしらに
光を下に見ても涙が増すだけ
天はただ天に落ち
夜へ向かう径は不可視にあふれる


虹の波が
霧雨と共に打ち寄せる
川辺の無数の水紋に
無数の灯が乗り 消えてゆく


幽霊は明るく荒んだ場所に立ち
水と鏡に背を向けている
檻の向こうの街
影の足首


水の音は軋む音
器に降る涙の音
紙の下の紙を踏み
近づくものの足音を視る



















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