香油/福岡朔
達のやわらかな手
蓮の匂いのする油でなぞるケロイド
あの人をいつくしんだと同じ強さで てのひらで撫でさする
悔いはない むしろわたしは充ちている
けれど 思わないではいられない
もっと何かしてやれなかったか もっと何かあたえてやれなかったか
ひな鳥のように 飢えたまるい口をさしだすあの人のために
銀の匙をいくつもいくつも用意すべきではなかったのか
すべては終わり 痕だけがここにある
うすもも色のそれに 香油をすり込む
あの人をいつくしんだと同じ強さで てのひらで撫でさする
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