年越し夜勤の思い出/板谷みきょう
すると
彼の後ろから顔を出して来たのが
破門されたヤクザ者の
千葉さんだった
「いやぁ。年末だから
地元に戻って来れた連中と連絡し合って
集まってた訳さ。
そしたら、病院の話になって
板谷さんの名前が出て
確か、いつも年越しは板谷さんが
当直のはずだってことになってさ。
それで、みんなで挨拶に行こうって
顔を見に来たのよ。
あん時ぁ、世話になったね。
何も持って来てねぇけどさ。
みんな、元気でやってるから。
・・・・
来年も宜しくお願いしますってもんさ。」
「お礼参り」と思った自分が
恥ずかしくなって
ボクは
「みんな、無理しないで
入院しないように
来年も頑張ってよ。
ありがとうね。」
そう言って一人一人に手を振り
窓を閉めた
ザクザクと離れて行く足音に交じって
「来て良かったな。」
「板谷さん、元気そうだったな。」って
声が聞こえて
内窓の鍵を掛けながら、俯いたボクは
不覚にも泣いてしまった
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