カオス・アンド・ディスオーダー/ホロウ・シカエルボク
、だから俺はここに居る、新しい詩はまた生まれる、だから俺は、だから俺は…横断歩道で妙な混雑を目にする、轢き逃げらしい、中年の女が横向きに倒れている、意識がないようだ、心得のあるらしい若い女が対応している、遠くで救急車のサイレンが聞こえる、救急車に合図を送っている青年の他はみんなただの野次馬だ、目立たぬようにスマートフォンを持ち上げている男もいる、指が動いていないところを見ると動画を撮っているようだ、野次馬だらけだな、俺は思わず呟く、一番近くにいた女が俺を睨み、舌打ちをする、分かってるよ、野次馬が一番正しいのが近頃じゃトレンドだ、俺はそう返す、女はあまり理解出来なかったみたいで、一瞬困惑の表情を浮かべて自分の役割に戻る、被害者は助かるだろうか、とその場を離れながら俺は考える、いつだって誰もが、死と隣り合わせで生きている、どこかでそれに怯えながら、真っ向から向き合うか、気付かぬふりをするか、あるいは本当に気付いてはいないのか、赤信号に足止めを食いながら、俺は明日の自分のことを考える、それがどこかで断ち切られない保証などどこにもありはしないのだ。
戻る 編 削 Point(2)